自然と人との距離を近づけるためにできること。

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祖母・傾・大崩 ユネスコエコパーク

公開日:2020/1/9

自然と人との距離を近づけるためにできること。

2018年9月、宮崎市瓜生野にアウトドアライフスタイルショップ『PORTAL』をオープンした中野祥吾さん(41歳)。「宮崎は、自然が一番の魅力。この自然を守りたい。守る人たちをサポートしたい」と発信を続ける。今は年間約100日は山に行っているのだそう。祖母・傾・大崩ユネスコエコパークには“自然への思いを持つ人たちの温かさ”を感じているという。自然を守る、そこで活動する人たちを応援する、そして山と人との距離を近づけるためにできることを考える中野さんの姿勢に共感の輪が広がっている。

宮崎の魅力は、この自然

宮崎の山の価値を知らせたい。

急峻な岩峰に圧倒される傾山。

 中野さんは、福岡県北九州市の出身。働いていた東京の会社を辞め、縁もゆかりもなかった宮崎を訪れたのは15年前のこと。宮崎で、仕事をしながら、次の旅のことを考えていたという。
 中野さんの気持ちを変えたのは、宮崎の自然だった。「小さい頃は、家族で釣りや山菜採りに行っていました。実家周辺は宅地整備されていて、自然は今では残っていませんが、宮崎には、子どもの頃に家族と過ごした時間を思い出す環境があった。父親と遊んでいたことを思い浮かべる、こういう環境は大事だなと感じました」。週末は渓流釣りをしたり、山を歩いたりするようになった。

 次第に、アウトドアの魅力にハマっていった中野さんは、「『宮崎は何もない』という人が多いけれど、何もないではなくて、多くの素晴らしい風景がある。この自然は絶対に守らなきゃダメでしょう」と思ったそうだ。そこから、地方に根付いた産業、地方独自の産業を考えていきたいと思うようになった。

 宮崎の魅力は、自然だ。身近に海があり、山もある。サーファーからは「宮崎が好き。宮崎の海が最高だ」と声が上がる。「『宮崎の山は最高』と誇りを持ってほしい。誰かがいいと言わなければ。思いついた人がやるしかないと思ったんです」と中野さん。
今後、ますます重要になってくる環境、健康、QOL(quality of life)。宮崎にはこれらがすべて、ある。「持っている人が価値に気づいていない。店がないと、裾野が広がらないのではないか」。中野さんは退職して法人を立ち上げ、『PORTAL』をオープンさせた。店のコンセプトは環境保全、地域貢献、QOLの向上に決まった。

『PORTAL』の店内。中野さんと話し、宮崎の価値を理解するブランドの商品が並ぶ。

祖母・傾・大崩エリアの一番の魅力は?

危険箇所の注意点やルールの情報を伝えることも大切。

自然を大切に思う人たちがいる温かさ。

延岡市内の子どもたちが遠足で訪れる行縢山。

 中野さんにユネスコエコパークに認定された祖母・傾・大崩エリアの魅力を尋ねると、「西日本最大の原生林が宮崎、大分の県境、僕たちが暮らしている場所にある。どの季節に行っても面白く、きれいで、厳しさがある。自然のそのままの姿を目の当たりにできること」と返ってきた。
その上で、中野さんが最も大きな魅力と感じていること。それは「自分たちが住んでいる地域を認めてもらいたい、知ってもらいたいと活動してきた人がいる。そして世界に認められた。この自然を守りたいと、大切に思った人たちがいる。人の思いがある場所というのが何よりの魅力だと思います」。

 一方、「それだけの価値があることを知らない人も多いのでは?」と疑問を投げかける。大切にしようという思いを持っている人たちがいることが、どのくらい伝わっているだろうか。中野さんは「この宮崎県地域資源ブランドサイトの記事を見て初めて、五ヶ所高原で活動している甲斐英明さんのことを知りました。例えばこの方に対して、僕たちができることは何だろうと考えることで、思いをつなげたい」と話す。

滝や山頂からの眺めに感動。

山の素晴らしさをみんなで分かち合う

傾山にて。やや天候が悪かったものの、霧に包まれて幻想的な雰囲気だった。

情報を発信し、まずは足を運んでもらう。

時には山頂でコーヒー を淹れて楽しむことも。

『PORTAL』は開店して2年目となった。現在、中野さんは、お客さんが山と出逢うきっかけをつくることに力を入れている。山へのハードルを下げるために、サークルを作っている。呼びかけから2ヶ月で40人が入会。最初は一人で参加した人も、今はサークルで出会った人同士で山へ行くことがあるという。「まず一歩踏み出した方が面白い。チャレンジするのは簡単なことだと思ってほしいんです」と背中を押す。「登山」ではなく「山遊び」「山歩き」という言葉を使うのも「気軽に山に入ってほしい」という中野さんの思いからだ。

「これから僕がやれるのは、宮崎の山について伝えられるストーリーを知って、お客さんに届ける架け橋になることだと思います。さらに、お客さんからもらった声を、地域で活動している人たちに伝えたい。それが皆さんの喜びになるはず。バラバラになっている思いをつないでいくことで、次の展開ができると思います」。

 思いを届けるために、店のブログでは、山のことだけではなく、仕事やライフスタイルなど、さまざまな情報を発信する。そこに共感するお客さんも多い。「祖母・傾・大崩エリアも、まだできることの一つが情報発信」と話す。「ありのままがいいからと、人に知られないように大切にするのではなく、知ってもらい、来てもらうことで、産業が成り立つ面は大きい。それと併せて正しい情報やルールを知らせながら守っていくのが大事だと思う」と中野さん。行政のサポートにも期待を込める。

四季折々の様々な風景を楽しむのも魅力。

一人ひとりができること。

祖母傾山系は花を楽しめるエリアとしても人気。

 山に向かうとき、中野さんが大切にしていることがある。それは、訪れた地域にお金を使うこと。「感動した場所で、風景だけでなく、食や人とのつながりも楽しませていただく。想いのある人たちのお店で食事をいただいたり、紹介してもらった場所に泊まったり。そうしたことで、より地域を好きになり、大切に思う気持ちも芽生える。自分の楽しみが人のためにもつながることは、働く上でのモチベーションにもなると思います」。

 自然がすぐそばにある宮崎は、たくさんのパワーを秘めている。「その価値をまず宮崎の人が気づいて誇りに思い、『宮崎はいいところ』と発信しよう」と中野さん。「傍観者じゃなくて当事者に」。縁のなかった宮崎で、当事者となり、応援を続ける中野さんの思いが、活動を続ける人たちの力となるに違いない。

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