綾町杢道(もくどう)地区、ホタル復活に向けた活動がスタート。

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綾ユネスコエコパーク

公開日:2023/2/28

綾町杢道(もくどう)地区、ホタル復活に向けた活動がスタート。

照葉樹林が広がり、豊かな生態系が残っている綾町。夏はホタルの名所として知られる場所もあり、水辺でフワフワと飛ぶゲンジボタル、森の中で明滅するヒメボタルのどちらも見られ、シーズンは多くの人でにぎわう。
すぐそばに綾北川が流れ、美しい自然の残る杢道(もくどう)地区も、かつてはかなり多くのホタルが生息していたのだという。杢道地区では2022年6月、わずかとなったその光を復活させようと、「杢道ホタルの里保存会」を設立。会長の森山康彦さん(53歳)に、自然あふれる風景の中で今後の展開をお聞きした。

かつての当たり前の風景をよみがえらせたい。

綾川荘奥に広がる尾谷渓谷沿いでは、ゲンジボタルとヒメボタルの‟共演”が見られる。

過疎化・高齢化する集落を残していくために。

杢道自治公民館前にある、用水路を利用したホタル公園。東屋もあり、憩いの場所となっている。

綾町は2022年7月、綾ユネスコエコパーク登録10周年を迎えた。広大な照葉樹林が残り、清らかな水と豊かな大地の恩恵を受けている。
ホタルは、水がきれいで、水流が穏やかな場所、そして民家が近くにありながらも暗く静かな場所を好む。ここ杢道地区にも30年ぐらい前までは、民家の周辺で見られたという。「ほうきを持っていってさっと振ると、穂にホタルがびっしり付くぐらい飛んでいました。いまは、それはないですね。さびしいです」と森山さん。かつては夏になると、当たり前に見られる風景だった。

今回、「杢道ホタルの里保存会」を設立するきっかけとなったのは、地区の過疎化・高齢化への不安だった。現在は民家が約60戸あるが、一人暮らしや子どもたちが町外で暮らしている家庭も多い。森山さんは「幼い頃から慣れ親しんで、お世話になってきた集落を残したい」と、地域おこしの企画募集に手を挙げた。

森山さんは、関東の会社に勤めた後、28歳で帰郷。町内の会社に勤務し、5年ほど前から農業に従事している。「祖父から『将来は帰ってきてくれ。頼むな』と言われていたことがずっと頭に残っていました。故郷で腹をくくってやっていこう。人のため、世のために役立つことをしたいと思ったのです」。将来は、空き家を活用した民泊で、ホタルシーズンには泊まってゆっくり楽しめることも思い描いている。

かつては、この水路周辺に、毎年、夏がくるたびにホタルが乱舞していたという。

ホタルを中心に地域おこしをしている「鳥川ホタルの里」へ。

愛知県岡崎市「鳥川ホタルの里」。森山さんたちが2022年6月に視察に訪れたときの様子。地区内外からの多くの来訪者でにぎわう。

小さな渦から、あきらめず持続し、大きな渦をつくってきた。

閉校になった小学校を活用した「岡崎市ホタル学校」。ホタルの資料館になっている。

保存会は、2022年6月1日に設立された。折しもホタルシーズンということで、設立後すぐに、愛知県岡崎市鳥川(とっかわ)ホタルの里への視察を決行。環境省の「平成の名水百選」に指定されている鳥川は、ゲンジボタルが棲息し、毎年5月下旬~6月下旬にホタルまつりが行われている。ピーク時には、1000匹を超える幻想的なホタルの舞が楽しめるという。住民と地区の学校はホタルとともに暮らせる環境を守るために、協働して河川清掃や森林整備などの環境保護活動を行う。2012年には旧鳥川小学校を改修し、拠点となるホタルの博物館「岡崎市ホタル学校」をオープンした。

「視察の日も、200台ぐらいの車が来て、水路沿いにずらりと人が並んで座っていました。地域の皆さんが交通整理をしたり、公民館の敷地で物産品の店舗を出したりしていました。年会費1000円で全世帯が運営しているという話も聞きました」。現在は市の予算もあるそうだが、当初は地域の方々のボランティアからスタートしたという。
「最初は反対もあったと言います。鳥川の会長さんは『誰かがバカにならなくちゃいけない』と話されていました。最初は理解ある1割でいい。小さな渦をつくり、あきらめず、投げ出さずに持続していく。そのうち、町外からもやりたいという人が出てくる。人が集まればアイデアが生まれる。視察に同行していただいた、綾ユネスコエコパークセンターの木野田毅先生と『少しずつ積み上げよう』と話し、力をいただきました」。

岡崎市ホタル学校の周囲にトレッキングコースをつくり、発信している。自然を存分に楽しんでもらい、関係人口へとつなげる。

水車復活や外国人へのガイドなど、これからの夢を描く。

夏でも心地いい風が吹き抜ける、緑豊かなホタル公園。「集落の皆で、大切な場所を守っていきたい」と森山さん。

若い世代を巻き込み、活動を未来へつなぐ。

かつては水車もあったという。懐かしい風景を現代の技術で復活させることも考えている。

コロナ禍が落ち着いたこれからは、地元住民への説明会や協力への呼びかけを行い、会のメンバーを募っているところだ。ホタル公園周囲の竹林の所有者は、「ホタル復活に向けて、いい活用をしてほしい」と、早速、協力を申し出てくれた。
「まずは、ホタルについてみんなで学びを深めたい。木野田先生と、ホタルの生態についての勉強会も始まりました」と森山さん。今後は、若い人をいかに巻き込んでいくかを考えている。「地域住民の協力、理解がないことには進まない。5年後、10年後を見据えて、まずは足元を固めたい」と話す。

「昔あった大きな水車を、現代の技術を使って復活させたい」「この集落で育った子どもたちの中には、外国語が堪能な子もいる。将来は海外の方にも楽しんでほしい」「集落で続く三世代交流行事に、いずれは地域の外の人も加わることができるといい。焼肉やそうめん流し、くじびきなど、みんなで楽しみたい」。森山さんの夢は、未来に向けて大きく広がっている。子どもや孫の世代がこの集落で住み続け、いつまでも清らかな水に親しみ、ホタルを追い続けられるように。ホタルの里復活への計画がいよいよ動き始める。

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