田野・清武地域の冬の風物詩。高校生の協力のもと、未来へ。

#日本農業遺産 干し野菜と露地畑作の高度利用システム

日本農業遺産 干し野菜と露地畑作の高度利用システム

公開日:2022/3/22

田野・清武地域の冬の風物詩。高校生の協力のもと、未来へ。

令和3年2月、宮崎市田野・清武地域の『宮崎の太陽と風が育む「干し野菜」と露地畑作の高度利用システム』が、日本農業遺産に認定された。清武地域を中心に盛んな千切り大根、田野地域が中心となる漬物用の干し大根。これらを作るために営まれてきた風景は、いまや宮崎市民の冬の心象風景の一つともなっている。
この宝に光を当てる取り組みに高校生が加わったことも、次世代に残していくための大きな一歩となった。JA宮崎中央干し大根部会の副部会長・黒田善和さん、JA宮崎中央南宮崎支店千切り大根部会会長・松田真郎さん、県立宮崎農業高校で大根プロジェクトを担当した高校3年生(当時)の話から、宮崎の干し野菜の魅力に迫っていきたい。

雨や霜にさらされないよう子どものように守り育む

大根やぐらの中は、大根の香りいっぱいのトンネルのよう。

12月から2月に吹く「わにつかおろし」が鍵

大根生産者で、JA宮崎中央干し大根部会の副部会長・黒田善和さん。宮崎農業高校の大根プロジェクトの協力者でもある。

宮崎市田野町といえば、漬物用大根の一大産地だ。土壌は黒色火山灰で、黒ボクが多く、肥沃な弱酸性の土壌が大根栽培に適していること、冬季に「わにつかおろし」という乾いた南西の風が吹き、この風が大根の乾燥に適していることで、干し大根日本一の生産量を誇っている。土と風を活かし、産地化が進んだ。大根を干す12月から2月に見られる「大根やぐら」は、宮崎の冬の風物詩。全国からこの美しい風景を撮影したいと、多くのカメラマンが訪れるほどだ。
JA宮崎中央干し大根部会の副部会長・黒田善和さん(59歳)は、父親から受け継いだ生産農家。毎年11月中に大根を干す「大根やぐら」を組み上げ、12月から大根干しが始まる。高さ6mもの大根やぐらに上り、葉の部分を2本一組に結えた大根を人の手で干していく。寒風の中、大変な作業だが、難しいのは干してからの天候だという。「温かい雨が一番の大敵。大根が腐ってしまうからです。10日から2週間で大根が乾くので、それを計算しながら、やぐらができるだけ満杯になるように回していきます。翌日の朝がマイナス3℃、4℃になると掛けられない。風が強くないときは、ブルーシートをかぶせて暖房をつけて凍らないようにします。この時期の天候はいつも心配です」。

大根に、縦に筋を付けながら洗浄する機械。筋が入ることで乾燥する。

次世代を担う宮崎農業高校生によるプロジェクト

農業高校内に建てた大根やぐら。漬物用大根として出荷まで体験。

校内に自分たちで建てた大根やぐらが話題に。

やぐらは通常10段だが、6段で作った。黒田さんの実験畑で作った大根を掛けていく。

黒田さんと宮崎農業高校の生徒との出会いは、2019年。授業の一環としてスタートした「大根プロジェクト」で、生徒たちが田野の干し大根について学んでいた。翌年には、田野・清武地域日本農業遺産推進協議会とも連携。現地審査や2次プレゼンでも活躍し、‟次世代への継承”が認定の大きなポイントになったという。

今年度の大根プロジェクトのメンバーは、小倉鈴菜さん、中岡祐基さん、田代啓人さん、竪山善大さん、永山哲也さんの5名。プロジェクトの活動の一つが、黒田さんに大根栽培から大根やぐらの作り方までを聞いて自分たちの漬物用大根を作り、工場に出荷することだった。担当した田代さんは「大根やぐらは設計図がなく、口頭で伝えられたものなので、黒田さんに教わりながら校内に6段のやぐらを作りました。上まで上って干して、校内や地域の人の間でも話題になりました」と振り返る。

小倉さん(左の説明者)は、先輩たちとともに、日本農業遺産の現地審査にも参加。「責任重大だと緊張しました」。

大根栽培実験や小学校での出前授業も。

宮崎市の本郷小学校で行った出前授業。給食のキムタクごはんについて知ってもらおうと、たくあんマンとキムチマンも登場。

黒田さんの畑の一部を借りて、大根栽培実験も。有機肥料と化成肥料の生育の差、肥料を従来よりも減らした畑、マルチの有無など、区を分けて実験した。結果は、化成肥料はサイズが大きくなりやすく、有機肥料の方がサイズがそろい、漬物工場で高く買い取ってもらえたそうだ。小倉さんは「現在、95%以上の農家は化成肥料を使っていることが分かりました。今回の結果から、有機肥料のメリットを知ってもらえるのではないかと思います。価格に表れたことが大きいです。それをもっとPRしていけば、環境に優しい、価格もいい大根ができるのではないかと思います」と次の展開を見据えている。

「もっと若い世代にたくあんを普及しよう」と、宮崎市立本郷小学校で出前授業も行った。大根の着ぐるみも登場し、楽しんでもらえるよう工夫した。「この日の給食のメニューは、キムタクごはんでした。キムチとたくあんを使った、子どもたちにも人気の給食です。説明のために、たくあんマン、キムチマン、フュージョンしたキムタクマンも登場させて、興味を持ってもらうことができました」。
今後は、後輩たちが引き継いでいく予定だ。「今年度は手をつけられなかった新商品開発も、今後、着手できれば、また違う面からPRになりそう」と期待をかけている。

有機肥料と化成肥料、マルチの有無など、栽培実験の結果を分析。有機肥料を使った方がGABA(アミノ酸の一種)成分が高いという結果も得られた。

伝統をつないでいくために先を見つめた取り組みを

清武町にある、JA宮崎中央南宮崎支店千切り大根部会会長・松田真郎さんの千切り大根棚。昔は寒風の中、すべて手作業だった。

さらに歴史をさかのぼる「千切り大根」も広くアピールしたい。

一晩で干し上げると、真っ白な千切り大根が完成する。

宮崎の干し野菜で漬物用大根よりも歴史をさかのぼるのが、千切り大根。切り干し大根と呼ぶ地域もある。宮崎は日本一の千切り大根の産地で、全国の90%強を生産。愛知、三重を大きく引き離している。
JA宮崎中央南宮崎支店千切り大根部会長・松田真郎さん(63歳)は、明治時代から受け継ぐ千切り大根農家。「冷たい西風で一晩で乾燥させると、真っ白な千切りができて本当にきれいです。1本の大根からできる千切りは100g弱の重さ。旨味が凝縮されます」と胸を張る。おすすめの食べ方は、「キュウリの代わりに冷汁に入れること」と教えてくれた。
「自然を相手に農業をしていく露地野菜に魅力を感じています。冬の風物詩となっているこの風景は、地域の誇りです」。

これからについては、松田さんも黒田さんも「伝統をつないでいきたい」と話す。ただ、現在も高齢化が進んでいる。機械化や新しい機械の導入への支援も併せて口にする。日本農業遺産に認定されたという意味を、地域みんなで考えてほしいと訴える。
「これから、千切り大根も干し大根と同様、宮崎空港や商業施設での展示など、もっとアピールしていきたい」(松田さん)。
「高校生がダイコンプロジェクトに携わってくれた。興味を持ってくれたのがうれしかったです。農業が若い人の選択肢の一つになったらうれしいと思います。今後は6次産業化についても考えたいです。目先のことばかりでなく、長いスタンスで考えていく時期にきたのだと思います」(黒田さん)。

宮交シティで行われた「大根やぐら展」。宮崎農業高校生も運営を手伝った。

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