地域を活性化することが林業をつなげること。

#祖母・傾・大崩 ユネスコエコパーク

祖母・傾・大崩 ユネスコエコパーク

公開日:2020/3/31

地域を活性化することが林業をつなげること。

平成30年、高千穂、日之影、五ヶ瀬町の林業関係者を中心につくる「西臼杵林業振興協議会」から生まれた話し合いの場が「やまテラス」だ。山で働く人や役場、支庁の林業関係者を核に、保育士や福祉関係者なども広く関わる。
「祖母・傾・大崩ユネスコエコパーク」に認定されるエリアにある西臼杵は、山に囲まれ、暮らしているだけで豊かな山々の自然が身近にある。だからこそ、この地で暮らす人々がもっと山に親しめるための取り組みを続けている。
木育(もくいく)活動を続けてきた日之影町八戸小学校では「卒業モリプロ(もりのかけらプロジェクト)」として、もりのかけらのお守りづくりやウッドフラワーづくりを実施。そこには林務に従事する県職員・小川考洋さんの思いがあった。

木の温もりがつなげる絆。

心を込めて磨いたオビスギのお守り。

八戸小の6年生(当時)が丸太を切って、もりのかけらのお守りづくりの準備。

 平成31年3月、3人の6年生が卒業した日之影町立八戸小学校。翌年に閉校が決まっていた学校の子どもたちに思い出をつくってもらおうと、やまテラスが「卒業モリプロ」を学校に提案した。「兄弟のように仲のいい全校生徒17名みんなで一緒に体験させたい」という校長先生の計らいで下級生たちと一緒に思い出づくりが始まった。

 6年生が生まれた年に植えられた、12年生のオビスギを使ったお守りづくり。子どもたちは「林業家の方が1本ずつ大切に植えて、今まで守り育ててきたこと」「それと同様に子どもたちも家族や地域の方に見守られてきたこと」について話を聞き、思いを込めてノコを引いた。6年生が輪切りにしたオビスギを割って磨く“もりのかけらのお守りづくり”は、全校生徒が参加する3月の卒業遠足で、青空の下、行った。1枚からカットされたお守りは「かけらの一つ一つが君たちだよ」と伝えられ、にぎやかな声が響く中、それぞれが丁寧に磨き上げた。日之影町森林セラピー協議会や町林業研究(林研)グループの大人たちも全力でサポート。「作った後は、みんなで合わせて、みんなの心が一つになっているのを実感できました」という嬉しい感想が届いた。

大人たちもみんなでサポート。お守りは、みんなが繋がっていることの証。

八戸だるまの伝統を忘れない。

八戸中学校、八戸小学校の子どもたちが受け継いできた伝統の「八戸だるま」。

 八戸地区には、70年以上前から張り子の“だるま”が受け継がれている。2月に行われる八戸観音祭で販売されるもので、長く八戸中学校で取り組んできた。中学校が平成19年に閉校してからは八戸小学校で伝統を引き継ぎ、守ってきた。小学校閉校後のだるまづくりについては検討中だが、西臼杵林業振興協議会では、新しい伝統として、卒業生が保護者にカンナくずから作られたウッドフラワーの花束のプレゼントを提案。これまで育ててくれた家族に、手作りの花束で感謝の心を伝えることになった。
 卒業式の約10日前、卒業する3人はカンナくずからお花ができることを初めて知って驚いた様子。木の香りに包まれながら、保護者に贈るウッドフラワーのブーケをきれいに作り上げた。卒業式では感謝の言葉とともに、かわいらしく出来上がった花束を保護者に贈り、笑顔があふれた。

林業をかっこいいものにしたい。

高千穂町で行われたサルタフェスタ2018。安全服で記念撮影!ちょっとこわいかな?

オール西臼杵で挑んだイベントは大成功。

グラップルという機械を操作して積み木体験。列ができるほど盛況だった。

 「やまテラス」の活動は、県職員として17年ぶりに西臼杵支庁林務課に戻った小川考洋さん(45歳)の声掛けから始まった。「初任地は西臼杵支庁でした。戻ってきて、子どもの数が減っていることにとてもショックを受けました。何かアクションを起こさなければと思ったんです」。小川さんにはトラウマがあったという。「異動後にテレビで放映されていた日之影町の小学校の閉校式で、親しかった林業家の方が涙を流していました。それを見て、日常に流されて何もできなかったことを悔やみました」と振り返る。異動をリベンジのチャンスと捉えて、多くの人を巻き込み始めた。

 初年度(平成30年度)はまず、林業の担い手を育て、西臼杵を元気にしたいという思いからスタートした。林業を目指す若者がなかなかいない現状。子どもたちのなりたい職業にも林業が入っていない。林業をもっとかっこいいものにしたいと考え、若手の林業家が集まり“YAMASHI(ヤマシ)”というチームを結成。高千穂町で行われる西臼杵最大のお祭りサルタフェスタで、林業を発信した。開催地の高千穂町だけでなく、日之影町や五ヶ瀬町の関係者も協力し、オール西臼杵での活動が実現したという。グラップルという物をつかむ機械を操作する積み木体験や、チェーンソーアートのステージイベント、安全服を身に着けての記念撮影、チェーンソー体験など、どのコーナーも大人気。子どもたちのためにと、多くの企業が協力・連携してくれたことも大きな収穫となり、「みんなで活動すれば可能性が広がる」ことを実感する機会となった。

西臼杵の若手林業家グループYAMASHIは、チェーンソー技術を競う大会に出場。毎年、阿蘇で行われている。

山や木にいかに親しんでもらえるか。

林業に関わる人の思いも伝える。

親子で参加できるお母さん木育講座。赤ちゃんも木片を磨いてお守りづくり。

 最初は林業の後継者を育てたいと考えていたが、次第に変わってきたという。「林業だけでなく地域を元気にしていこう。地域が活性化して畜産や農業など、そして林業の担い手も確保できる。私たちは木を通して地域が元気になる機会をつくろうと思うようになりました」と小川さんは振り返る。

 子育て支援センター、福祉課と連携し、お母さん木育講座も実施した。箸やウッドフラワー、まつぼっくりの門松など自宅で使える物を作る。自分で摘みとる椎茸狩り体験も。地域の人が快く協力してくれることも素晴らしい。山に囲まれてはいるものの、若い人のライフスタイルは街場と変わらない。山を身近に感じてもらう活動となった。
 教育委員会や高千穂の図書館との連携では公民館講座や図書館まつりで山の魅力を発信した。物をつくるだけなら木工だが、目指しているのは木育。材料が手元に届くまでに木を植える人、育てる人、切る人、製材する人。それぞれがどんな思いを持って仕事をしているのか、思いを伝え、山のもつ公益的機能などいろいろな機能についても伝えている。

椎茸ってこうやって生えているって知ってた? ポコッと採れる感触も楽しい。

西臼杵の森の活動を広げたい。

ウッドフラワーづくりはどこでも人気。身近に山や木のことに触れ、感じてもらうことが何かの一歩につながる。

 これまでの活動は、デザインを得意とする小川さんが読み物としてフリーペーパーを作成し、残している。主役は地域で暮らす人々。次に何かアクションを起こしたいという人が読んでヒントになるようにと願い、作成した。
 今後は「地域の人たちが続けていくことをサポートしたい」と小川さん。神楽や食などの文化が色濃く残り、自然豊かな西臼杵。だが、そこに暮らす人はそれが日常となり、何が一番の強みになるのかが分からないのかもしれません。その中で県職員としてできることを考えてきた。「過去は変えられない。けれど、未来は変えられるんじゃないか。今、石を投げれば波紋は起きるのでは?」。何度も地域の若者たちに語ってきた言葉だ。

 「卒業モリプロ」の取り組みは、西臼杵へ、宮崎市へと広がってきた。五ヶ瀬中学校や宮崎市内の小学校では、PTAの方々が木片を磨き上げ、卒業生に森のかけらのお守りが贈られた。
高千穂高校では、平成30年度から続ける林業普及啓発活動の一環として、卒業生がみんなでお守り作り。令和2年2月には、卒業記念製作に先立って、YAMASHIの若手林業家から生徒たちに向けて話があった。「この木は西臼杵の山に植えられ、今まできれいな空気をつくり、皆さんはその空気を吸いながら育ってきました。この木は私たちの親の世代が苗木を1本1本手で植えて、植えた後も草刈りをして大切に育てたものです」と話し、生徒たちは今までの高校生活への思いやお世話になった方々への感謝、これからの夢への思いを込めながら磨いた。
 子どもたちはお守りを手にするたびに故郷の山々を思い、家族や友人の大切さをかみしめることだろう。

卒業モリプロのお守りづくりは、宮崎県内で広がっている。故郷への思いを忘れないでほしいとの願いを込めて。

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