綾の自然に癒やされ、元気をもらう毎日。

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綾ユネスコエコパーク

公開日:2020/3/31

綾の自然に癒やされ、元気をもらう毎日。

綾町の郷土料理研究家・野村美智子さん(66歳)宅の庭は、2月でもかわいらしい花が出迎えてくれる。家の中へ入ると、野村さんがお茶を準備して待っていてくれた。どんぐりの粉のクッキーとハーブティー。ハーブはレモングラスとステビア、レモンバーム、自宅の庭で摘んだものばかり。「レモングラスとステビアは乾燥しておいたんです。レモンバームは生の新芽が出ていたから。今年は暖冬なので、特別早いですね」と野村さん。リラックスできる香りに包まれて、綾町の自然や食文化などについてお話を聞いた。

自然、人の営みの豊かさが綾町の宝。

シイノキの花が咲く照葉樹林。「綾ユネスコエコパーク」に登録され、世界から注目が集まる。

ワーキンググループの活動で魅力を再発見。

春の庭園。オープンガーデンにも参加しているので、訪ねてみて。

 野村さんの名刺をいただくと、綾町自治公民館女性連絡協議会会長、自然保護推進委員、郷土料理研究家、山菜アドバイザーなど、幅広い活動に驚かされる。国富町出身で、結婚と同時にご主人の実家・綾町で暮らして40年以上。地域づくりのワーキンググループに入ったことから活動が広がってきた。「さまざまな場所のふれあいマップを作ることになりました。一つ作るのに2~3年かかりました。この辺りの杢道(もくどう)地区のマップは、皆さんにアンケートを取って、年配の方から若い方まで一緒に話し合って作ったんです。面白い話がいっぱい集まりましたよ」。
 アンケートでは「五感」で覚えていることを質問。目に浮かぶ風景や耳に残る音などを子どもからお年寄りまで集めたという。「素敵な文章がいっぱいありますよ」とマップを見せてもらった。例えば「足の指でつかまえるほど鮎がいた」「我が家でお茶を煎った懐かしい匂い」「ホラ貝を音(ケ)と呼んでいた。この音を聞くとみんな集まった」など、自然の豊かさ、人の営みの豊かさを感じる言葉にあふれていた。

 2010年、このワーキンググループで、「ユネスコエコパーク」に提言しようという案が上がった。「ユネスコエコパークのことを知って『これいいね、綾町にぴったりだね』と盛り上がりました」と振り返る。約半世紀かけた自然と共生する地域づくりや、照葉樹自然林が日本で最大規模で残されていること、「綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画」に取り組んでいることなどが認められ、2012年7月、綾町はユネスコエコパーク(生物圏保存地域;BR)に登録された。

ドングリ粉のクッキーと、自家製ハーブティーでひと息。

郷土料理研究家として地域の料理を残す。

かしの実こんにゃく(右)と、花のちらし寿司。かしの実こんにゃくには、みそかフキみそを付けて。

かしの実こんにゃくを甦らせたい。

自宅を改装した「彩翠」。山菜たっぷりのランチは2500円(3日前までに要予約)。

 野村さんが今、最も注力しているのが郷土料理研究だ。綾に住み始めたときに聞いた「かしの実こんにゃく」を、約15年前に再現したのが料理研究のきっかけだった。かしの実こんにゃくは、樫の実の粉から作る、コンニャクのような食感の料理。照葉樹林文化ならではの一品は、以前は町内でも作られていたが、途絶えていたという。「国富町で毎年作っている人たちがいらっしゃって、教えてもらいました。レシピはないので、作り方を見せてもらって自分で挑戦したのですが、うまくいくまでに3年かかりました」。

 ドングリをつぶして水にさらし、布で濾して沈殿したデンプンを乾燥させ、粉にしたものを使って作る。最初の年は、残さないといけないデンプンを捨ててしまい、失敗。ドングリの種類やつぶし方を試行錯誤し、一つ一つ殻を割って、ミキサーにかける方法がいいという結論に至った。取材の最初にいただいたクッキーは、デンプンをとった後の残りの材料で作ったものだ。濾した布に残る部分は、これまで捨てられていたそう。「もったいない」と思って作り始めたクッキーは、木の実のほのかなアクが残り、素朴な味でおいしかった。

綾の料理をつなぎたい。

今も、年数回は料理教室をしている。みんなであくまき作り。

 「かしの実こんにゃくを作り始めて、水飴や米飴、芋飴を作ってみてくれん?とリクエストが来るようになりました。郷土料理を発掘しようと料理教室をしていました。地域のおじいちゃんおばあちゃんの知恵を聞こうと始めたら、『あんた、料理研究家やね』と言われるようになったんです」。
 新聞社から、昔、洞窟で修業をしていた鬼玄丹(おにげんたん)が食べていた「玄丹鍋」を再現してほしいと依頼されたことも。ゆべしやこんにゃくなどは名人にレシピを尋ね、残す活動もしている。「ゆべしは、米を乾燥させて粉にした自家製米粉を使うのが名人のレシピ。私も米粉と餅粉は、大寒のころに3日か4日ほど干して、寒ざらしで作っています。綾らしい郷土料理といえば、やっぱりあくまき、こんにゃく、ゆべしかな。今は、以前、天皇陛下に献上したヤマモモの羊羹を作りたいと挑戦しています」と野村さん。商品開発の依頼も入り、今も多くのリクエストがひっきりなしに入ってくる。

草花も生物も野鳥も、綾の自然が大好き。

山菜アドバイザーや自然保護推進委員に邁進。

自宅のすぐ裏の水路。夏は亡くなられたご主人と、庭でお茶をしながらホタルを眺めたそう。

 自然が大好きという野村さん。山菜アドバイザーの資格を取り、今は水曜のみ、自宅で山菜料理の店「彩翠」を開いているほか、ケータリングや仕出し弁当の注文も受けている。前日に綾で採った旬の山菜をたっぷり使った料理で、手に入ればイノシシや山太郎ガニが入ることも。取材の日、ごちそうになったランチは、色とりどりのお花がいっぱいのお花見寿司。「ツクシも出ていたから、朝、採ってきたんですよ。いつも花見の時期には、これを作って持っていきます」。特製のかしの実こんにゃくは、酢味噌か、この春作りたてのフキ味噌をつけて。セリと玉子のお吸い物も香りよく、体が喜び、五感が磨かれる料理だった。

 また、4年前から自然保護推進委員として川の調査を続けている。毎月、自分の都合がつく3日間連続して、夕方、川の調査へ。カニかごの中に餌を入れて川に沈め、翌朝、何が入っているかを記録する。「自分が好きだから続けています。寒くても、目が覚めると川に行きたいなとウズウズしてきます。家の裏の水路には、ヤマセミやカワセミ、カワガラスなどの野鳥も来てくれて、台所から見えるんです」。綾の自然を心から愛する野村さんたちボランティアの方の活動が、綾ユネスコエコパークの取り組みを支えている。
さらに10年ほど前からは野鳥好きの仲間とバードウォッチングも始めた。毎月第1土曜日7:30から、集まった人のみで実施する自由参加の会。「早朝から、気持ちいいですよ。誰でも参加OKです」。

川の生態調査では、テナガエビなども見られる。サイズも計測。

若い人たちに知識と知恵をつないでいく。

馬事公苑の向かいに完成した綾町花壇。お弁当を広げるのもいい。

花いっぱい、文化いっぱいの綾町に。

花壇に植えたオドリコソウ。「踊り子が輪になっているように見えるでしょう」。

 最後に紹介するのが「みんなでつくる綾町花壇プロジェクト」。馬事公苑のそばの花壇に約80種類の草花を植え、遊歩道も整備された。面白いのが、植える花の種類だ。「里山の身近な植物を植えています。食べられる山菜も入っているんですよ。キランソウとかムラサキサキゴケ、オドリコソウ、ハナウドも白い花が咲いていい香りがして。野の花を見直してほしいと思います」。

 野村さんたちが植物を選び、ガーデナーの平工詠子さんがデザインした。2019年11月には、みんなで苗や球根を植えるイベントもあり大盛況。「雑草と思って抜いていた花。こんなにかわいいのね」と驚く方もいたとか。綾町にはラナンキュラスの育種家が住んでいることから、特にラナンキュラスを充実させた。1年を通してさまざまな花が咲く花壇は、新たな注目スポットとなっている。「この花壇も綾の里山の魅力を伝えるということで、綾ユネスコエコパークとして連携しています。世界中に発信できるといいですね」。

 今後、もう少し余裕ができれば、野村さんの知識や料理の技を「若い人たちにつなげたい」と話す。パワーいっぱいの野村さんを慕って、話を聞きにきたり、「助手になります!」と言う若者も増えてきた。
 歩いてすぐの身近な場所に、山や川、植物や生物たちがきらめく素晴らしい自然がある。野村さんの知識と知恵を若い世代が受け継ぎ、発信していけば、ますます面白くなっていきそうだ。

キランソウ。普段はほとんど注目されない花が入っているのが楽しい。

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