古代人も見ていた四季折々の風景。

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日本遺産 南国宮崎の古墳景観

公開日:2019/8/20

古代人も見ていた四季折々の風景。

 2018年5月、文化庁が認定する「日本遺産」に、西都市と宮崎市、新富町が共同申請した『古代人のモニュメント-台地に絵を描く 南国宮崎の古墳景観-』が選ばれた。日本遺産は、地域の歴史的魅力や日本の文化・伝統をテーマ性のあるストーリーでつなぎ、観光振興や地域の活性化を目指す目的で2015年に創設されたもので、宮崎県初の認定となった。
 西都市の西都原古墳群、宮崎市の生目古墳群、蓮ヶ池横穴墓群、新富町の新田原古墳群は、古墳の周囲に建造物がほとんどなく、古墳が造られた当時の姿が残っている点が評価された。生目古墳群は4世紀頃、西都原古墳群は5世紀頃、新田原古墳群は6世紀頃、蓮ヶ池横穴墓群は6~7世紀頃に繁栄したとされる。そしてその中心となる西都原古墳群は、4世紀初頭から7世紀頃にかけて造られたとされる319基もの古墳が残されている。大切にしていきたい宮崎の宝だ。
 『古墳DE興奮!祝!日本遺産認定「南国宮崎古墳景観モニター散走」』イベントを手がけた奥口一人さん(56歳)に、西都原古墳群の魅力を語ってもらった。

西都原を自転車で盛り上げたい

日常生活の中にある風景を活かす

西都原考古博物館3階からの眺め。古代の人々も、この山並みを望んでいたのだろうか。

 西都市街地に店を構える「サイクランドおくぐち」、「ジャイアントストア宮崎」(宮崎市)の代表を務める奥口さんは、創業67年になる自転車店の二代目。大学進学までを地元西都市で過ごし「西都原は歓迎遠足などで必ず来る場所。妻高校時代はバドミントン部の練習で来ていたので、日常生活の中に古墳がある環境でした」と思い出を話す。

 幼い頃から自転車店を継ぐことを意識していたかと思いきや、「中学時代のドロップハンドルブームも、周りの同級生と違ってあまり興味がなかったぐらい」と笑う。大学4年で、周りの学生の就職活動を見ながら家業を継ぐことを決め、卒業後はブリヂストンサイクル株式会社の研修で「自転車技士」の資格を取得した。研修後に実家に戻るとすぐにスポーツ車ブームの波が少しずつ来始め、霧島温泉であったヒルクライムレースでデビュー。「自転車ブームの先駆けですね。レースイベントに初めて参加して面白くなって、すると1980年代にはマウンテンバイク(MTB)ブームがきました。キャンプを兼ねて九州内のMTB大会にみんなで遠征して、楽しかった」と奥口さん。

 40歳まではJC(青年会議所)にどっぷり。手弁当で進めていくまちづくりにハマり、多くのイベントも開催した。西都原と直接、関わり始めたのは、今から8年前だった。市の担当者から「自転車で地域を盛り上げられないか」と相談を受け、ブリヂストンとの縁をきっかけに、「ブリヂストンアンカーチーム」のキャンプが実現。西都原から一ツ瀬ダムまで往復50kmを約100人で走り、チームメンバーは西都原の農家民泊に泊まるミニ合宿だった。それからスタートしたのが、西都原エンデューロ4時間耐久レースだ。3.8kmの公道を完全封鎖し、古代ロマンあふれる西都原古墳群内特設周回コースをたっぷり走る。現在は3時間耐久となり、西都原の新春の風物詩となっている。

西都原エンデューロ3時間耐久レース。新春の走り初めとなる人気イベント。

生目・西都原・新田原。3つの古墳群を結ぶサイクリング

「電動アシスト自転車で坂道も楽々。気軽にサイクリングを楽しんでもらいたい!」と話す奥口一人さん。

 昨年は、日本遺産のプロポーザルに応募し、2018年10月から2019年2月まで、『古墳DE興奮!祝!日本遺産認定「南国宮崎古墳景観モニター散走」』全8回をやりとげた。“散走”とは、自転車部品メーカー「シマノ」が提唱する、散歩するようにゆっくりと自転車で巡り、歴史や文化に触れたり、収穫体験をしたり、食を楽しんだり、地域の皆さんと交流する新しい楽しみ方のこと。イベントでは3つの古墳群それぞれを巡る散走コースや、外国人が参加するインバウンドコース散走を企画実施。また、3つの古墳群を巡る80kmのコースには、神戸港発の宮崎カーフェリーを活用したツアーで、関西の皆さんに南国宮崎を堪能してもらった。

 奥口さんは「今回、3つの古墳群を結んでみて、それぞれの古墳群の魅力を感じました。生目は学習・研究施設として、西都原は観光地として、新田原は田園風景の中に古墳が溶け込んでいる場所としての個性があります。この3つが連携すると、時代の移り変わりも体感できます。サイクリングで1泊2日のいいコースになると思いました」と手応えを感じている。サイクルツアー部門は今年度も継続しており、旅行会社との話を詰めて商品化したいと意気込んでいる。

西都原古墳群の魅力は?

ミステリアスで自然豊か

西都原の台地でまず目に入るのが鬼の窟古墳。西都原で唯一の開口した横穴式石室を持つ206号墳。

 「改めて、西都原古墳群の魅力は?」と尋ねたところ、「もう日常の風景だからなぁ。広くて、子ども時代の記憶が甦ってくることかなぁ」と迷った後、「ミステリアスなところかも」と返ってきた。国内最大級の帆立貝形古墳「男狭穂塚(おさほづか)」、九州最大級の前方後円墳「女狭穂塚(めさほづか)」は、宮内庁による御陵墓参考地に指定されている。地元では、神話に登場する天孫降臨の神ニニギノミコトとその妻コノハナサクヤヒメの墓とも伝えられている古墳だ。地中レーダー探査は行われているものの、解明されていない謎も多い。

 西都原古墳群の発掘調査は大正元年から始まり、日本で初めて学術的・組織的調査が行われた地でもある。これだけ多くの古墳がある中で、調査が完了しているのはまだ10分の1にも満たないという。まさしくミステリアスで、これからの調査の成果が期待される。

 奥口さんは、西都原古墳のもう1つの魅力を「季節を感じられること」と答えてくれた。「鬼の窟(いわや)古墳」周辺には、春は桜と菜の花、夏はヒマワリ、秋はコスモスが植栽され、四季折々に美しい花を咲かせる。さらに、古代から変わらぬ風景が見られるとっておきの場所がある。鬼の窟古墳の南東にある「13号墳」付近。第1支群と呼ばれるエリアで、柿や栗の果樹もあり、心癒される風景が広がる。「ここは、夏はクワガタがすごいんですよ。夜、子どもを連れて行くと喜びます。というより、親の方が夢中になりますね」と奥口さん。男狭穂塚、女狭穂塚周辺には5月中旬になるとヒメボタルの光が瞬く。季節ごとに楽しみが待っている。

13号墳周辺は、柿や栗の木が植えられ、古代の風景をそのままに残した公園になっている。

西都の文化にじっくり触れて

散走と長期滞在を目標に

約25kmのコースを設定し、食事や収穫体験なども織り込む女性にも人気のイベント「散走」。

 これから、もっと西都原、西都市の宝を活かしていくために、やはり奥口さんには自転車が欠かせない。「近年、自転車は健康・環境・観光などの面で世界的にも注目され、まちづくりにも取り入れられています。その中でも宮崎には全国トップレベルの自転車を楽しむ環境が揃っています。温暖で晴天の日が多く、おいしい農畜海産物の宝庫、海へ山へと道路が整備されている、交通量が少ない、ドライバーのマナーがいいとも言われます。それと何より空気がいい。来店されるサイクリストの皆さんから嬉しい言葉をいただいています」。

 今、力を入れているのが散走体験だ。数回、実施している散走イベントでは、収穫体験が好評。春、夏はマンゴーやズッキーニの収穫。5、6月はブルーベリー。10月はさつま芋堀りが計画されている。今後は今まで走ったお薦めの「散走コースサイクリングマップ」を作成し、日常的にいつでも体験できるよう考えている。

 そして散走をよりいいものにするため、今秋には、大阪府堺市への研修を予定している。散走を提唱する自転車メーカー・シマノが本社を構え、市役所に自転車課がある堺市。2019年に世界一の面積を誇る墓・仁徳天皇陵がある百舌鳥(もず)古墳群がユネスコの世界遺産に登録されたことも記憶に新しい。「関西はカーフェリーもLCCもあります。日本遺産と世界遺産がつながるルートになります。素晴らしいですよね」。

 さらに、思い描く奥口さんの次の目標は「長期滞在できるようにしていく」こと。西都原で完結するのではなく、街中に民泊があったら…、一ツ瀬川上流の銀鏡(しろみ)地区とつないで立派な古民家が活用できたら…と展望する。「僕は60歳で一度、区切りをつけたいと思っているんです。勝負はあと4年半。これまでやらせてもらったことをまちづくりにつなげていきたいと思っています」。

西都原を中心に、文化遺産に触れてほしいと願う。銀鏡神楽の「シシトギリ」。狩猟文化を色濃く残す。

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