活火山の“大地の声”に耳を傾ける

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霧島ジオパーク

活火山の“大地の声”に耳を傾ける

 現在も多くの活火山を持ち、“大地の声”を感じ取ることができる「霧島ジオパーク」。白池図(しらいけ・はかる)さん(76歳)は元高校の地学教師。退職後、2014年に霧島ジオパークが日本ジオパークの認定を受ける以前から関わってきた。「地質を知ると、地域の生い立ちが分かって、目の前に違う風景が見えてくる。自分たちの土地を地質の目でも見てほしい」と、出身地であるえびの市では、地元住民による「えびのガイドクラブ」の創設にも関わり、今も共に活動を続けている。白池さんと一緒に、夏の緑が美しいえびの高原を歩いた。

地元住民にふるさとを見直してほしい

活火山のパワーを体感

噴煙を上げる硫黄山、右に見える韓国岳に登ることができるようになり、客足が戻ってきた。

 えびの高原は標高約1200m、我が国最初の国立公園に指定された霧島屋久国立公園の北部に位置し、韓国岳(からくにだけ)や甑岳(こしきだけ)など大小20もの火山、不動池や六観音御池などコバルトブルーの火口湖が4つあり、天然記念物・絶滅危惧種の動植物の宝庫でもある。
 韓国岳、硫黄山の裾野にある駐車場に到着すると、ふわりと硫黄の香りが鼻腔をくすぐる。そしてまず目に飛び込んでくるのは、噴煙を上げ続ける硫黄山だ。2019年8月1日現在、硫黄山は噴火警戒レベル2(火口周辺警戒)、新燃岳は噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)となっている。一部立入規制はあるものの、白池さんは「活きている火山のパワーを間近で見て、感じるのは、今しかできない魅力」と語る。

地質から見る面白さを伝える

えびのガイドクラブが常駐する「足湯の駅えびの高原」。

 到着したらまず立ち寄りたいのが、観光案内所のある「足湯の駅 えびの高原」。2019年4月3日にえびの市に譲渡され、えびのガイドクラブのメンバーが交代で常駐している。美しい写真が展示された休憩スペースとトイレを備え、登山口やコースについて親切に教えてくれる。
 白池さんは8年ほど前、えびの市に住んでいる郷土史家、霧島ジオパークのガイド、えびの市役所の職員らと話し合い、ガイドクラブを設立した。現在も顧問を務める。創設当初のことをこう振り返る。「地域に住む人たちが、自分のふるさとを見直してみる。その中で地域の特徴を活かした活動をする。地域を再発見し、それを活用した地域活性化を目指したかった」。専門であるジオ(地理・地球)だけではなく、郷土史なども含めて地域の魅力を探っていった。
 今もガイドクラブのメンバーらと共に、えびの学講座を続けている。加久藤盆地は、カルデラの跡で大きな湖の時代もあった。そこに地層が堆積し、川内川などの流れで削られ、現在の地形ができていったという土地の成り立ちを伝える。「島津義弘がなぜ飯野に城を造ったか、それは川内川が天然の堀になっていたから。古墳から保存状態のいい刀が出てきたのは、赤ホヤという水を通さない地層が上にあり、昔の河原の跡を示す砂礫層の上に埋蔵品が置かれていて、錆びなかった。地質から明らかになることがあるでしょう」。

防災への意識を日々高める

新燃岳噴火から8年間のデータを蓄積

えびの高原から西に下った「白鳥展望所」。「えびの盆地がかつて湖だったころの水面を見ることができる」と白池さん。

えびのエコミュージアムセンター。左は所長の坂本謙太郎さん。

 えびの高原の拠点「えびのエコミュージアムセンター」にも立ち寄った。ここは、霧島山の情報発信基地の役割と共に、防災の拠点でもある。所長の坂本謙太郎さんは元市職員。白池さんとも長年、連携してきた1人だ。
 「2011年に、新燃岳が約300年ぶりにマグマを噴出しました。それから、えびの市から救援が来るのに30分掛かるため、有事の際に30分間をどう対応するかを毎日、常に考えてきました。火山の防災として高いレベルで安全を確保できると自負しています」と話す。
 一例を紹介してもらった。毎日、気象台から火山情報を取得し、高原内の施設や市役所、ホームページなどで情報を共有する。もちろん、この情報は館内でも紹介されている。火山ガスの自動検知器も所有する。さらにヘルメットは100個を常備。センターの天井はアラミドという防弾チョッキにも使われる特殊素材が使われている。防災情報は英語、韓国語、中国語で放送ができる。
あらゆる場合を考えたハード、ソフト面が強化されてきた。そして何より、8年間のデータが蓄積されていることが大きい。「登山者は、登山届けを必ず提出してもらっています。利用者の意識も高くなってきたと感じます。この意識を忘れずに継続していくことが大切」と坂本さんは力を込める。

えびのの素晴らしさを未来へ

ダイナミックな風景が目の前に

えびのエコミュージアムセンターからすぐ。えびの展望台から、えびの高原全体が見渡せる。

「川湯跡」と呼ばれる場所。最近、硫黄岳の火山活動に伴い、水温が上がっているという。

 人気の池めぐりコースの最初のポイント「二湖パノラマ展望台」へと向かう。展望台で、白池さんから、えびの高原の植生について教えてもらった。「えびの高原は一面、アカマツの林。これは硫黄山の噴火活動で以前あった森は消え、その後、陽を好むアカマツが育った。噴火の影響を受けなかった場所には昔のままの森が残っている」。
 近年、えびの高原でも鹿の増加による食害が問題になっている。葉を食べられて枝だけ残った笹や、新芽を食べられたノカイドウなどもあった。かわいらしい姿で愛嬌のある鹿だが、生態系のバランスが崩れてきているのは、観光客の餌付けも一因という。一人ひとりの意識が、美しいえびの高原を後世につなげていくことを認識したい。
 えびのエコミュージアムセンターから約30分と気軽なトレッキングで、「二湖パノラマ展望台」に到着した。「白紫池(びゃくしいけ)の奥には約10万年前の火山活動で生まれた白鳥山。六観音御池のバックに見える甑岳(こしきだけ)は、約1万8000年前の噴火でできた溶岩の山。同じころにできた韓国岳は、軽石が主な成分。ここから見えるだけでも、かなり面白いでしょう」と白池さん。説明を聞いていると、ダイナミックな霧島山の風景が目の前に立ち上がってくるようでワクワクしてくる。この景色を眺めながら昼食をとる。爽やかな空気の中で頬張るおにぎりのおいしいこと!

かわいらしい鹿にもたくさん出合った。ただ、えびの高原でも数の増加のための食害は問題となっている。

受け継いできた宝を見つけ、伝える

獅子戸岳から見た2018年3月の新燃岳の溶岩、白池さんの友人 永田光男さん撮影・提供。えびの高原に通い、素晴らしさを発信している。

 白池さんは、えびの市内の小学生にも、授業で地学の楽しさを伝えている。「高校で地学を教える先生が少なくなっているのを危惧している。この土地がどんなふうにできているのかを知ると、子どもたちは生き生きしてくる。成長の過程でこの学問に触れてほしい」と話す。
 「地学は、自然を体験すること。自然そのものを見ている。こんな自然がどのようにしてできたのか、自然現象による災害の原因などを知ると、自然と人間との関わり方を考えるようになる」。
 土地の成り立ちを知ることは、先祖から受け継いできた宝を知ること。地域の将来のために、白池さんはこれからも、種をまき続けていく。

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